急速なテクノロジーの発展に伴い、従来型のマネジメント手法では運用が難しく感じるケースも増えてきました。そこで、注目されているのが「チェンジマネジメント」です。チェンジマネジメントは、今や多くの企業が新規事業展開や経営戦略の見直し時に採用しています。

本記事では、チェンジマネジメントとは何かについて、重要性や進め方も織り交ぜながらわかりやすく解説します。自社に導入すべきかどうか、この機会に検討しましょう。

チェンジマネジメントとは何か?

チェンジマネジメントとは、企業やチームが組織を変革する際に、メンバーに働きかけたり、環境を整えたりしながら変革をするマネジメント手法です。メンバー全員が納得したうえで、現状よりもよい環境に変えていくため、メンバーの心理状況に左右される要素も多い手法です。

起源は1990年代のアメリカで、マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマーと経営コンサルタントのジェイムズ・チャンピーによる理論が発端とされています。彼らは組織内における人的心理の理解や容認が重要だと述べ、これが従来の手法を見直すきっかけとなったのです。

日本でもバブル崩壊以降、多くの組織変革が行われましたが、いずれも人件費削減やハード面の改修など、働く個人に寄り添ったものではありませんでした。そこでチェンジマネジメントに関心が集まり、経営戦略や組織変革において従来のマネジメント手法を見直す流れが活発になったのです。

チェンジマネジメントの重要性

チェンジマネジメントは、変化の激しい現代で特に重要視されています。なぜなら、現代はVUCAと呼ばれる先行きの見えない不安定な社会となっており、企業や組織も時代の変化に合わせて柔軟に経営や業務を変えていく必要があるからです。特に、ITやDXが急速に発展している昨今は、従来の経営手法のままで企業変革を成功させるのは難しい状況だと言えます。

そのため、企業の在り方や組織の未来について、これまでのやり方を見直すのであればチェンジマネジメントを活用するのが有効でしょう。

チェンジマネジメントは3つのレベルに分けられる

チェンジマネジメントは、組織の状態や規模に合わせて3つのレベルに分けて考えるのが一般的です。各レベルにおけるマネジメントを解説します。

個人レベル

個人レベルでは組織の個人ひとりひとりにスポットを当て、変化に適応させていくマネジメントを行います。

組織が変わる際には、変革に対してマイナスのイメージを持っていたり、反発したりする人もいます。そこで対応が必要な個人に、心理学なども応用しながら変化を促す必要があるのです。たとえば「誰から指導を受けるか」「業務内容をいつから変えるか」など具体的に計画を立て、抵抗感を軽減しながら変革を促進します。

個人に着目してアプローチしていくことで、各人の生産性や仕事の質も向上するでしょう。

プロジェクトレベル

プロジェクトレベルは、複数のメンバーについて、変革に必要な要素を洗い出しながらグループ単位で変化を目指すものです。プロジェクト単位の場合は、数百〜数千人の個人に影響を与えることもあります。

具体的には、プロジェクト内で変化が必要なメンバーやグループを特定し、どのような働きかけが必要かを考えます。そして、対象ごとに必要な指導やサポートを策定し、気づきを与えながら変化を促す方法が一般的です。

組織レベル

組織レベルでは、変化の激しい社会や競合他社に対応するため、企業全体で取り組むべき経営戦略を明確にします。ただし、規模の大きい組織レベルで変革するには、個人・プロジェクトレベルでのマネジメントをすでに達成(並行)している状態であることが望ましいでしょう。

各メンバーが状況や方針を把握しており、リーダーはグループを指導できる状態になっていると、企業全体にもチェンジマネジメントが浸透していきます。

チェンジマネジメントの代表的なフレームワーク

チェンジマネジメントは、時代の変化に合わせさまざまな枠組みが提唱されてきました。ここでは、代表的な3つのフレームワークを紹介します。

レヴィンの変革モデル

レヴィンの変革モデルは、ドイツ出身で渡米した心理学者のクルト・レヴィンが行った研究によって広まりました。

以下の3段階に分けて、チェンジマネジメントを実施するのが特徴です。

  • 1.解凍
    変革への反発に対して、原因を分析し、変革が必要な理由をメンバーに伝えて納得させる。
  • 2.変革
    変革を組織全体に展開する。状況に応じて複数のステップを講じながら変革を進めていく。
  • 3.凍結
    実践した変革を標準モデルとして、組織に定着させていく。

「従来の価値観を変える(解凍)」+「新しい方法を生み出す(変革)」「変革による成功事例を増やす(凍結)」の3ステップは、第二次世界大戦以降広く活用され、その後のモデルにも影響を与えました。

ADKARモデル

ADKARモデルは、米国のProsci社創業者であるジェフリー・ハイアットが開発しました。ADKARは、以下5つの単語の頭文字を集めて「ADKAR(アドカー)」と呼ばれています。

  • A:Awareness(認識)
    組織のメンバーに危機意識を与え、変革の必要性を認知させる。
  • D:Desire(願望)
    変革が必要だと感じたメンバーが、自らの意思で変革に参加したいと感じる状態にする。
  • K:Knowledge(知識)
    変革を成功させるために必要な知識を習得する。変革を進めるリーダーは知識を適切に提示できるように準備する。
  • A:Ability(能力)
    習得した知識を使って、変革を実践する。
  • R:Reinforcement(強化)
    変革による成果を認めて、さらに変革が長期的に継続されるように強化していく。

ADKARモデルはとてもシンプルで、誰にでも実践が可能な手法です。

コッターの8段階プロセス

コッターの8段階プロセスは、ハーバード・ビジネススクールの教授でもあるジョン・コッターが提唱したものです。1996年に出版された著書の『企業変革力』によって、世界中にこの考えは広まりました。

コッターのモデルでは、8つの段階に分けてチェンジマネジメントを実践します。

  1. チームや組織内の危機意識を高める
  2. 変革チームを結成する
  3. 変革のためのビジョンを策定する
  4. ビジョンを組織内に伝達する
  5. ビジョンを実現するためにメンバーをサポートする
  6. 短期間で成果を出すために計画を立て、実行する
  7. 組織が改善したことを定着させて、さらに変革を進める
  8. 変革を根付かせる

わかりやすいモデルではあったものの、変化の多い社会では適応しきれない部分もあると気づいたコッターは、プロセスを見直し2014年に新しい8段階プロセスへ更新しました。2014年版の新変革8ステップについては、このあと紹介します。

コッターの新変革8ステップとチェンジマネジメントの進め方

最後に、チェンジマネジメントの進め方を詳しく見てみましょう。ここでは、最も有名で広く採用されている「コッターの8段階プロセス」の2014年アップデート版を紹介します。

1.危機意識を与える

まずは、変革が必要かつ緊急であることを組織に理解してもらいます。

従来型ステップでは、危機意識を高められても、変革が緊急課題であることは理解してもらえないケースがありました。そこで、組織に起きている問題点や現状・ニーズを把握し、全員が当事者として問題を捉え、このままでは危機的な状況になると認識できる状況にします。

変革を進めるためには、組織内の意識改革がもっとも重要です。そのため、全員の足並みをそろえ、共感度や緊急性を高めることに注力しましょう。

2.変革を主導する人材を集める

次に、変革を主導する人材を集めてチームを組みます。従来型の第2ステップでは、チームの結成のみでリーダーシップが欠けていたため「リーダーのいるチーム結成」に改変されました。

変革を主導する人材として、以下のスキルを持つ人を優先して集めるとよいでしょう。

  • 変革に関する作業を円滑に進められる能力がある人
  • 人脈がありメンバーに対して影響力を持っている人
  • 周囲からの評判がよく、ある程度の権限も持っている人

上記を満たす人材がチームに入れば、変革も効率よく進み、短期間で成果を出せる可能性が高まります。

3.変革ビジョンと戦略を決める

3つめは、変革に向けたビジョンや戦略を定めます。

ただし、ビジョンを定めるだけでは従来型のように不透明な部分も出てくるかもしれません。そのため、ビジョンを策定する際には以下の点に留意します。

  • 組織の未来をはっきりと可視化できるか
  • 変革を実施すれば全員にメリットがあるか
  • 変革が現実的だと思える目標は設定されているか
  • 意思決定する際の方向性は明確か
  • メンバー個人が自主的に行動できるような柔軟性はあるか
  • ビジョンはわかりやすく5分以内に説明できる内容か

4.ビジョンに賛同するメンバーを増やす

第4ステップは、ビジョンに共感してくれるメンバーを集めながら組織内の期待度を高めます。

1996年版にもあった組織内の伝達だけでは、コミュニケーションが不足しており、メンバーがどの程度理解できているのかわかりません。

そのため、ビジョンの周知は継続して行い、オンライン・オフラインの両方を活用しながら共感度を高めていきましょう。

5.ビジョンを実行するうえで障害になるものを取り除く

第5ステップでは、変革をスムーズに進められるよう環境を整えます。

仮にビジョンがわかっても、それを実践できる場がなかったり、既存の仕組みが邪魔していたりしては本末転倒です。そこでメンバーが自発的に動けるような仕組みや行動規範を用意します。

6.短期目標の達成経験を増やす

第6ステップでは短期的な目標を作成し、それを達成して変革へのモチベーションを維持します。短期間で成功体験があれば、進捗も可視化でき、メンバーに成果報酬も与えられます。

最終的なビジョンを達成するためにも、短期目標の達成で変革への期待度を維持しましょう。

7.危機感を持ち続けて変革を維持する

変革を維持していくには、メンバーにさらなる行動を促すことが重要です。そこで第7ステップでは、変革をさらに加速してくれる人材を教育したり、再度危機感を持たせたりすることで、ビジョンの達成が近づいていることを示します。

すでに達成した目標を実務に活かしながら、組織全体の改革を推進するのも有効です。

8.あたらしい手法を社内に定着させる

最後のステップは、達成したビジョンを組織内に根付かせることです。

これまでの実績や成果を全体で共有し、変化を受け入れる適応力を全体に定着させます。既存のメンバーのみならず、後継者や将来のリーダーにも新しい手法を受け継いでもらえるよう、人材育成にも注力しましょう。

チェンジマネジメントで組織の意識を改革しよう

チェンジマネジメントは、現代社会においてどの組織でも向き合うべき手法です。

しかし、コッター式のステップをすぐに導入するのは難しい企業もあります。そこで、コッター式からヒントを得たAsanaのチェンジマネジメントで組織改革することをご検討ください。組織レベルで新規事業やツールの導入を行う予定なら、6つのステップで管理できるAsanaのメソッドが有効です。

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