ホラクラシーは、これまでの組織体制とは全く異なる新しいタイプの組織構造です。社内での上下関係をなくし、対等な関係を築けることから、海外のみならず日本企業でも導入が進んでいます。

そこで本記事では、ホラクラシーとは何かについてわかりやすく解説します。ホラクラシーとよく比較されるティール組織との違いやメリット・デメリットも理解できますので、従来型と比較しながら学びましょう。

ホラクラシーとは?

ホラクラシーとは、上司・部下など役割や役職を設けず、全員が対等な関係で働ける組織システムです。2007年に米国のホラクラシー・ワン社が新しい組織のスタイルとして開発しました。

組織内の各メンバーへ平等に意思決定権を分散し、各自が主体的に業務に取り組めるようになっています。また、ホラクラシーを導入して組織同士を自立させることで、社内全体の業務効率も改善できるのが特徴です。

ここではまず、ホラクラシーが注目されるようになった背景や、関連用語との違いを見てみましょう。

ホラクラシーが日本で有名になった理由

近年の急激なテクノロジーの進化や社会状況の変化によって、働き方が見直されています。実際、リモートワークの普及などで、これまでの雇用形態では変化に対応しきれない部分も出てきました。

また、日本だけでなく世界全体において、社会は不安定かつ複雑で、先の見通しを立てにくいVUCA時代に入っています。そのような環境下で、従来の組織管理のままでは業務効率化が難しくなってきています。

そこで、欧米を中心に話題になっていたホラクラシーが日本でも注目され始めました。

ホラクラシーのメリットは後ほど紹介しますが、変化を受け入れながら個人が成長できる環境を形成でき、それが企業全体の活性化につながるため、組織変革を推進する企業を中心に導入が進んでいます。

ホラクラシーとヒエラルキー型組織・ティール組織との違い

ホラクラシーと合わせてよく耳にする用語に「ヒエラルキー型組織」「ティール組織」があります。

ヒエラルキー型組織は「階層型組織」とも呼ばれ、部長や課長など階級や役職を設定し、上の階級になれば権限が増していく従来型の組織です。権限を多く持つ人に情報や意思決定権・報酬が集中するため、組織内のパワーバランスには偏りが発生します。

一方でホラクラシーは、リーダーのいない非階層型のため、意思決定権も分散され、組織内の個人が役職や役割に関係なく主体的に活動できる点が異なります。

もうひとつの用語「ティール組織」は、ホラクラシーと類似の文脈で利用されることが多い用語です。ティール組織もホラクラシーと同様に、権限を分散させて個人の自由度を高められます。

しかし、両者は全く同じものではなく、ホラクラシーと比べるとティール組織は組織運営の方法や進め方について明確なモデルを定めておりません。ホラクラシーには開発・実践のための明確なルールを定めております。

ホラクラシーのメリット・デメリット

ここからは、ホラクラシーのメリット・デメリットをくわしく紹介します。従来型の組織経営から切り替える際にはデメリットもあるため、把握しておきましょう。

ホラクラシーのメリット

ホラクラシーのメリットは、以下が挙げられます。

  • 個人のモチベーションアップ
  • 意思決定の速さ・生産性の向上などの業務効率化
  • 幅広い意見の集約
  • 小規模なチーム編成で環境の変化に適応が可能

ホラクラシーでは、上下関係に基づいた人の管理や統治をする必要がありません。そのため、各自が役職者に伺いを立てずとも、自分の役割ややるべきことに専念でき、業務を速やかに遂行できます。個人が適度な責任感を持って仕事をすることで、やりがいや達成感も芽生え、仕事に対するモチベーションも高められるでしょう。

またホラクラシーでは、プロジェクトごとにチームを組むことも可能なため、部署の枠をこえて人材を集められます。個人同士の交流が活発になれば、それぞれが意見を発する機会も増え、ニーズの変化や競合他社の対策にも柔軟に対応できるようになります。

ホラクラシーのデメリット

反対に、ホラクラシーのデメリットには以下の点が考えられるでしょう。

  • 個人の状況や進捗を把握しにくい
  • 導入に時間がかかる
  • 機密情報の管理が困難

人の管理がなくなると、「きちんと作業を進めているのか」「目標と違った行動をしていないか」を確認するのが難しくなります。

ホラクラシーは全員が主体的に仕事をしている前提で形成されるため、業務をおろそかにしている個人やミスにも気づきにくくなる可能性があるのです。

また、ホラクラシーに対して反対的な考えを持つ人もいます。特に権限を持つ経営陣や役職者は、立場を失う不安感から導入を拒否するかもしれません。ホラクラシーはまだ広く知られている組織構造ではないため、新しい企業文化として導入するには、大規模であればあるほど時間やコストもかかるでしょう。

そして、組織全体に対して情報共有が行われる点がホラクラシーの魅力ではあるものの、その分全員が適切に機密情報を管理する難易度は上がります。事前に情報管理を制限するなど一定のルールを設けておかないと、情報漏えいの危険性が高まります。

ホラクラシーの導入方法

ホラクラシーを実際に導入する際、何から始めたらよいでしょうか。ホラクラシーには必要な役割や導入方法があります。

ホラクラシーに必要な役割

ホラクラシーに階層構造はないものの、各メンバーが自分の役割を果たす必要があります。具体的には以下3つの役割をメインに、状況に応じて役割を追加・変更しながら進化させていくのが一般的です。

役割名業務内容
リードリンク・組織内の目標や戦略の提示
・優先順位決め
・各メンバーの役割決めや情報共有
ファシリテーター・ルールと進捗の確認
・業務の調整
・ミーティングの主催
セクレタリー・作業や新たなルール・変更の記録
・議事録の作成

ホラクラシーをチームや組織に導入する方法

ホラクラシーを組織に導入するには、以下の手順で進めていくのがよいでしょう。

  1. 組織の目的や目標を明確にする
  2. 必要なルールを決める
  3. 目的を達成するために必要な役割を決める
  4. ホラクラシーに移行する方法を決める
  5. 導入を拡大していく

ホラクラシーをなぜ導入する必要があるのかをまずは洗い出します。従来型の方がうまく経営できる企業もあるため、ホラクラシーを導入して何を達成したいのかを明確にしましょう。

目的が決まったら、組織を円滑に運営するためのルールを決めます。ルールはホラクラシー憲法と呼ばれ、行動指針となる重要なものです。ルールを作成できたら、組織に必要な役割や人数を定めて、従来型からどのように移行していくかを考えます。

その後は、導入する部署やグループを次第に拡大して企業文化を根付かせていきましょう。

ホラクラシーを導入する際の4つの注意点

ホラクラシーは、日本ではまだ導入事例が少ない新しい考え方の組織構造です。そのため、間違った認識を持って、導入に失敗したり、タイミングを逃したりするケースもあるかもしれません。

ここでは、ホラクラシーを上手に活用して組織を発展させていくために、知っておくべき4つの注意点を紹介します。

1.ホラクラシーを「自由な組織」と誤解しない

ホラクラシーを「全員に権限が与えられた自由な組織」とだけ捉えていると、組織内の秩序が乱れかねません。そもそもホラクラシーを導入する際には、事前にルールや役割を定めておく決まりです。

適度な制限の中だからこそ主体的に活動できるのであり、すべてを個人の自由にしている組織ではないことを今一度理解しておきましょう。

2.小さなチームに導入しながら移行していく

従来の階層型組織からホラクラシーへ移行するには、時間がかかります。また、米国発の考え方であるホラクラシーを導入しても、すべての企業がよい方向へ向かう保証はありません。

そのため、まずは小さなプロジェクト単位レベルで導入し、自社に合うルールや役割決めを色々と試してチューニングしながら、少しずつ移行していくのがよいでしょう。

3.メンバーの役割や構成を明確にする

ホラクラシーの形成では、各人材がどの役割を担うかがとても重要です。

ホラクラシーの中ではメンバーひとりひとりに自己管理能力やコミュニケーション力が求められます。さらに、リードリンクやファシリテーターなど、ほかのメンバーに対し適切に意思伝達・業務スケジュールの調整ができる人も必要です。

ホラクラシーでは明確なリーダーを決めませんが、いざというときに責任を負う人を決めておくなど、問題発生時にすぐ動けるような人材配置にしておきましょう。

4.給与や評価がオープンになることに注意する

報酬や評価制度に関して、階級型組織とホラクラシーでは全く異なります。従来型では階級に応じて報酬が変動し、勤続年数が長い人ほど給与も高くなっている企業が多いでしょう。

しかしホラクラシーは、自分の報酬は自分で決め、役割や業務に応じて報酬も一律にする公平性が原則です。全員の評価や報酬も組織内に共有され、だれがどのくらいの給与なのかも把握し易くなります。

この考えを従来型の企業に浸透させていくのは難しく、反対されるケースも十分にあるでしょう。移行後にトラブルを生まないためにも、評価や給与体系の変更は慎重に話し合って進めます。

ホラクラシーの企業事例

最後に、ホラクラシーを導入した日本企業の事例を2社紹介します。

ダイヤモンドメディア社

ダイヤモンドメディア社は、日本でホラクラシーを導入した先駆者といわれている不動産系のテック企業で、創業の2008年からホラクラシー型の経営を実践中です。

具体的には社内での肩書きや働き方、休みなどを社員に一任して、各自で自由に決められる仕組みを採用し、社内の情報をすべてオープンにしています。

株式会社ソニックガーデン

国内でリモートワークをいち早く導入して話題になったのが、ソフトウェア開発会社の株式会社ソニックガーデンです。

物理的なオフィスを持たず、全社員が好きな場所で好きな時間に働いています。また、管理職を作らず、各自のセルフマネジメントによって高い生産性を生み出しています。

ホラクラシー経営で柔軟な組織運営をしよう

ホラクラシーは米国発の新しい組織体制で、日本ではまだあまり知られていません。

そのため、従来のヒエラルキー型組織から移行する際に、社員にビジョンを理解・共感してもらうのが難しい場面もあるでしょう。それでも変化の激しい業界や分野では、ホラクラシーを積極的に導入して実際に成功しています。

もし現状の組織運営が硬直化しており、課題の解決につながらないと感じているならホモクラシーの導入を検討してみるのもよいかもしれません。

尚、ヒエラルキー型組織からの移行で気になる点である、目標やルールの共有・社員間のコミュニケーションは、ツールを使うことで負担を軽減できます。

弊社が取り扱っているAsanaなら、プロジェクト管理や進捗の把握・チャット機能も網羅されているため、現行でもホラクラシーに移行後でも柔軟に業務のフォローが可能です。無償トライアルもありますので、まずは既存の組織体制での活用をご検討ください。