組織の在り方を見直す際に、よく見る用語の一つが「自律型組織」です。多くのビジネス分野で注目されている組織体制であり、近年では大企業だけでなくベンチャー企業でも広く取り入れられています。

そこで本記事では、自律型組織について概要や階層型組織との違い・メリット・デメリットを詳しく紹介いたします。自律型組織を形成する際に必要な要素や成功事例もお伝えしますので、導入を検討中の方はぜひ参考にしてください。

自律型組織とは?階層型・管理型組織との違い

自律型組織とは、明確な上下関係を作らず、権力が組織のメンバーに分散されている組織を意味します。「自律分散型組織」や「DAO(Decentralized Autonomous Organization)」と呼ばれることもあります。

自律型組織は、目標に向かって各自が計画を立てて主体的に行動していくため、意思決定の権限は分散されています。また、目標自体を組織のメンバーで定める場合もあり、管理職やリーダーが指針を定めずとも自主的にすべてを遂行することも可能です。

自律型組織とよく比較されている用語として、階層型や管理型組織が挙げられます。

階層型・管理型組織は、組織内の人間関係にヒエラルキーがあり、上司や部下などそれぞれに適切な役割や権限が与えられている組織です。自律型組織と比べると、メンバー個人が持つ権限に大きな差があります。

自律型組織が注目されている理由

近年、リモートワークの普及によって働き方が大きく変わり、ワークライフバランスも以前より保ちやすくなりました。

しかし一方で、仕事へのモチベーションが下がった人も少なくありません。たとえば、上司から指示はあるものの、業務の様子を把握しにくいため評価が適切でなくなったり、チームが指示待ち状態で生産性が下がってしまったりしたケースもあるでしょう。

そのような環境下で、改めて「個人」の働き方や仕事への向き合い方を見直し、自律型組織の導入を検討する企業が増えています。自律型組織なら、リモートワーク環境や迅速な対応が求められる職場環境において、ひとりひとりが権限を持って活躍できる場を作り出せます。

より複雑に変化していく今後の社会では、自律型組織を活用して、個人の力をどれだけ発揮できるかが重要になってきているとも言えるでしょう。

自律型組織のメリット・デメリット

自律型組織による効果はよい影響ばかりではありません。注意すべき点もあるのです。そこで、ここでは自律型組織のメリット・デメリットを解説します。

自律型組織のメリット

自律型組織のメリットには、以下が挙げられるでしょう。

  • ・個人へ平等に権限を与えられる
  • ・仕事へのモチベーションが高まる
  • ・意思決定や承認までのスピードが速くなる
  • ・実務に沿った意見が出やすくなる

自律型組織になると、ひとりひとりの個性を発揮して業務に打ち込めるため、モチベーションも高まり、チーム内でも意見を発言しやすくなります。上からの指示を待たずにチームが主体的に活動できれば、事業の生産性も上がり、スピーディーに業務を進められるでしょう。

自律型組織のデメリット

一方で、自律型組織のデメリットは以下です。

  • メンバーに高いマネジメントスキルが求められる
  • ・チームの育成に時間がかかる
  • ・全体に情報共有する機会が減少する
  • ・問題点に気づきにくい

自律型組織を形成するには、高いスキルを持った人材の育成が欠かせません。個人が主体的に行動することで生産性や業務の効率化が促進されるため、人材のスキルが低いとかえって状況を悪化させてしまうかもしれません。

また、規模が大きくなるとチーム内外での情報共有が徹底されず、トラブルの発生に気づかなくなる可能性も高まります。

自律型組織の3つの種類

自律型組織には3つの種類があります。各種類の特徴を把握しつつ、自社にはどのスタイルが合うかチェックしてみましょう。

アジャイル型組織

アジャイル型組織は、チーム内の編成を小さくし、短期間で企画・実行・評価・改善をくり返していく組織です。小規模なチームを集合体にすることで、各チームに意思決定の権限が与えられ、業務効率の改善につながります。

また、各チームごとにプロセスを組んで実行していけるため、業界や市場の変化にも柔軟に対応しながら事業を発展していける点も特徴です。

アジャイルはソフトウェアの開発手法としても知られていますが、チームマネジメントの分野でも注目されており、IT・Web業界だけでなく多くの企業で活用されています。

ティール組織

ティール組織は、組織が5つのステップで進化していくと考える方法で、全員がフラットな状態で行動することにより、全体の目標を達成していける組織です。米国のマッキンゼーで組織変革に携わってきたフレデリック・ラルーが、ベストセラー書籍となった著書『ティール組織』にて発表しました。

ティール組織は、具体的に以下のステップを踏みながら到達します。

  1. 衝動型(レッド):力による支配がある組織
  2. 順応型(アンバー):上限関係のある組織
  3. 達成型(オレンジ):実力者が上位に立つ組織
  4. 多元型(グリーン):多様性や平等性を認める組織
  5. 進化型(ティール):自主性がある生命型組織

進化型(ティール)まで発達すると自律型組織となり、組織全体だけでなく個人の成長も見込めるでしょう。

ホラクラシー組織

ホラクラシー組織は、ティール組織と同様に組織内全体の上下関係をなくし、メンバーが対等になっている組織です。

ただし、ホラクラシー憲法と呼ばれる独自ルールを設定し、そのルールに従ってメンバーが意思決定を下しながら行動します。これまでは役職者が決めていた部分をなくす代わりに、ルールの制定によって方向性を守るため、承認や判断時の迷いが減って、業務のスピードも高められるのです。

また、ホラクラシー組織は、ルールの活用によって組織を適度に統制できるため、バランス感を保ちながら業務を進められるでしょう。

自律型組織の形成に必要な要素

自律型組織の作成方法には、明確なルールが存在しません。採用する種類によって作り方は異なりますし、事業形態や職場環境によっても進め方は大幅に変わります。

また、「自律型=権限を与えられた自由な組織」と考えて、いきなり上下関係をなくす考え方を持つのも危険です。自律型組織の実現には意識すべき要素があり、それらをもとに自社に合うスタイルで組織の在り方を見直していくのがよいでしょう。

ここでは、自律型組織を形成するために必要な要素のうち、代表的なものを4つ厳選して紹介します。

方針やビジョンの共有・共感

自律型組織に必要な要素としてまず挙げられるのが、組織が目指すべき方針やビジョンの共有です。自律型組織を形成しても、どこに向かって進んでいくべきかがわからなければ、メンバーも方向性を見失って動けなくなります。

そこで必要なのが、組織全体での方針です。正しく方針やビジョンを共有し、共感してもらうためには、トップ層がわかりやすい表現で説明して、ひとりひとりに伝えようとする精神が欠かせません。どのメンバーが見ても今後の方向性を理解でき、それを実現するために力になりたいと思えるような共感性を意識してビジョンを共有しましょう。

ガバナンスの構築

自律型組織では、ガバナンスを構築してチームを適度に統治することも必要でしょう。ガバナンスとは「企業による管理体制」を意味し、自律型組織においてはホラクラシー組織などで用いられる「憲法(ルール)」のようなものです。

方針に加えて、ある程度の行動指針も決めておくことで、メンバーはルールをもとに自分ができることを主体的に考え行動に移せます。

「自律型組織を形成するのだから自由な環境が必要だ」と認識する人も多いですが、一定の決まりは必要です。たとえば、チーム内で意見が割れた場合に、ルールがないと誰の意見を採用するのか判断できません。

そのため、各自が自分の思ったとおりに意思決定を下すのではなく、ルールに沿って意見を考え、業務遂行できる環境を作るのが望ましいでしょう。

目標設定

適切な目標設定も、自律型組織の形成で意識すべき要素です。

簡単すぎる目標や難しすぎる目標だと、メンバーは業務に対してモチベーションを維持できません。簡単すぎるものは手を抜いてしまったり、途中で飽きてしまったりする可能性があり、反対に難しすぎると、自分には無理だと諦めてしまう場合が想定されます。

そこで、「今の状態では少々厳しいが、努力次第では達成できそうだ」と思える目標を設定するのがよいでしょう。

心理学の世界では、頑張ればできそうだと思える目標を実現すると、達成後にこれまで以上の満足感ややる気を得られ、さらにモチベーションが上がるとされています。そのため、自律型組織を形成する際には、メンバーひとりひとりに適切な目標が設定されているかを確認しましょう。

目標は定性的なものと、数値で結果を表せる定量的なものの2種類を用意すると、客観的にメンバーの状態を把握できます。

情報のオープン化

最後に、組織内の情報共有を活発にすることです。自律型組織を形成した際は、メンバーが自主的に行動できるような情報があると、より各自の生産性や業務効率化の促進が期待できます。

反対に、組織間での情報共有が不足していると、新しいアイデアやスキルがメンバーに入って来ず、業務のスピード感が遅くなってしまう可能性があります。そこで、意識して情報をオープン化していく姿勢が重要です。情報共有を活発にする方法には、例として以下が挙げられます。

  • 各自の進捗状況を把握できる外部ツールの活用
  • 組織の枠をこえたミーティングの実施
  • 社内報でメンバーの価値観を共有
  • 経営陣のビジョンを定期的に動画で配信

ほかにもさまざまな方法が考えられますので、自社のスタイルに合ったものを取り入れて、メンバーの自主性を刺激しましょう。

自律型組織の成功事例

最後に、自律型組織の成功事例として有名な企業の取り組みを紹介します。

2014年にホラクラシーを導入して話題になったのが、米国で靴の通販販売事業を行うZappos(ザッポス)社です。ザッポス社では、メンバー間だけでなく顧客とのコミュニケーションの拡充を図り、それがメンバーの新たなアイデア創出・新規事業の開拓につながっているといいます。

部署や役職の枠にとらわれず、誰もがお互いに話せる環境を作り、それをルール化したことで、ザッポス社の社員は自主的に行動できるようになりました。

自律型組織で人材の個性を引き出そう

自律型組織は、ただメンバーに権限を与えれば形成できるものではありません。

自主的な行動を促進するうえでは、迷いを生まないルールや方針作り、個人のスキルアップにつながる目標設定、組織全体での情報共有が大切です。特に、小規模なグループをいくつも作成する場合や、組織全体が大規模になると、情報共有も困難になるでしょう。

そこで、情報のオープン化や、個人の成長度の確認ができるツールを活用することも視野に入れる必要があります。弊社が提供しているAsanaであれば、プロジェクト単位・チーム単位・組織全体での目標や作業達成進捗を確認できるほか、メンバーと気軽にコミュニケーションを取って個性を活かすことも可能です。

自律型組織の導入に興味がある方はManagement 3.0研修がお薦めです。

まずは無料トライアルや無償のワークショップを利用して、自律型組織の形成を推進しましょう。