ビジネスを成長させる上では、適切な目標を設定し、組織と個人の目標を正しく紐づけて管理していくことが必要不可欠です。
近年、そうした目標を管理するための手法として注目されているのが「OKR」です。
今回は目標管理の手法のひとつである「OKR」の概要や具体的な運用方法、OKRとよく混同されがちな「KPI」や「MBO」との違いについて、詳しく解説していきます。本記事を読むことで、組織としてより高い成果を出すための目標管理の方法が理解できるようになります。
OKRとは?
OKRとは、「Objectives and Key Results(目標と主要な成果)」の略称で、高い目標を設定・管理し、達成するためのフレームワークです。
OKRの主な特徴としては、目標の設定、追跡、再評価のサイクルを高頻度で回していく点にあります。また、OKRの目的は、すべての従業員が同じ目標を目指し、一定のペースで計画を進めていくこととされています。
OKRの要素は、1つの「O:Objectives(目標)」に複数の「KR:Key Results(主要な結果)」が付随するという形で成り立っています。各要素について解説していきます。
OKRの基本要素 O:Objectives
OKRのO:Objectivesは、組織として達成を目指す目標を明文化したものを指します。
ここでの目標設定のポイントには、以下の3つがあります。
- 定性的でシンプルな目標
- チームの士気が上がる、挑戦的な目標
- 1~3カ月で達成できる目標
目標設定の際に注意したいのが、「新商品の売上1億円達成」といった定量的な目標は設定する必要がないということです。「新商品の全国展開を成功させる」といったような、定性的な目標を設定していきましょう。
OKRの基本要素 KR:Key Results
OKRのKR:Key Resultsは、定性的な目標(Objectives)を達成するための具体的な指標を指します。
ここでの目標設定のポイントには、以下の3つがあります。
- 定量的で数値での計測が可能
- 1つのObjectivesに対して2~5個程度の目標
- 達成率が60~70%となるような、ストレッチな目標
特に注意したい点としては、あえて達成がやや難しい目標にするという点です。「難しいが頑張れば達成できそう」といった目標とすることでメンバーの成長が促進され、組織の成長スピードを加速させることができるためです。
また、KRは2〜5個程度に絞り込んで設定すると良い点にも注意しましょう。個数を絞ることで、目標に優先順位をつけることができ、より集中してパフォーマンスを出すことができるためです。
OKRを導入するメリット・デメリット
自分の組織にOKRを導入すべきかを判断するために、OKR導入のメリット・デメリットも理解しておく必要があります。
ここでは、OKRを導入する場合のメリット4つとデメリット2つを紹介します。
OKR導入のメリット
OKRの導入は従業員の成長を促進し、目標を効率的に達成させるために役立ちます。
具体的には、次のようなメリットが得られます。
1.企業のビジョンが組織全体に浸透しやすくなる
OKRは組織全体の目標と個人の目標がリンクしています。そのため、企業の目指すビジョンが従業員にも伝わりやすく、全員で同じ方向を向いて進みやすくなります。
2.エンゲージメントの向上
OKRでは共通の目標に向かって行動するため、組織内のコミュニケーションが活発になり、従業員のエンゲージメント向上が期待できます。ここでのエンゲージメントは、組織に対する愛着や貢献の意志、モチベーションを指します。
また、OKRでは組織の目標に紐づいた個人の目標を設定するため、個人目標の達成が組織への貢献に直結します。個人の目標を定量的なものにすることで、貢献度を可視化できるため、従業員の組織に対するエンゲージメントの向上に繋がります。
3.優先順位の明確化
OKRは、1つの定性目標に対して2〜5個の定量目標を設定するという構造となっています。そのため、OKRを導入することで、1つの目標達成に直結するタスクの優先順位が明確になるため、従業員は効率的な行動を取りやすくなることが期待できます。
4.迅速かつ柔軟な方向修正が可能
OKRを導入することで、目標との乖離があった場合でも迅速かつ柔軟な方向修正が可能になります。OKRは1〜3ヵ月程度の短いサイクルで運用するほか、サイクルの途中でも頻繁に進捗確認を行うためです。
OKR導入のデメリット
OKRの導入には、次のようなデメリットも存在します。
1.適切な目標を設定しづらい
OKRでは、「60〜70%の達成率が期待される」といった難易度の目標を設定します。この目標の難易度は感覚的なものであるため、経営陣と現場スタッフの間で現状との乖離が生まれてしまうこともあります。
2.従業員のモチベーションが下がる場合がある
本来OKRでは「難しいが頑張れば達成できそう」といった挑戦的な目標を設定します。
しかし、「60%〜70%程度達成できればよい」と認識してしまった場合、従業員のモチベーションは下がってしまいます。このようなケースは、これまでノルマやMBOのような100%の達成率を求められる目標管理手法を用いていた場合にしばしば発生します。
こうした事象を防ぐために、他の目標管理手法からOKRに切り替える場合は、組織内で目標設定に対する認識を十分に擦り合わせておきましょう。
OKRとKPI・MBOとの違い
OKR以外にも様々な目標管理手法が存在します。ここでは、目標管理手法の中でもOKRとしばしば混同される「KPI」と「MBO」について解説していきます。
KPIとOKRの違い
KPIとは、「重要業績評価指標(Key Performance Indicator)」という意味で、数値化された目標を管理するための定量的な指標です。OKRでも定量的な指標は用いられますが、あくまで最終的な目標達成までのプロセスを共有するための指標です。
KPIは最終的な目標達成までのプロセス自体を管理する手法であるため、より細かく具体的な指標になってくるという点がOKRと異なります。
また、KPIは100%の達成率を目指すという点もOKRとの大きな違いです。
100%の達成率を目指すためにも、KPIでは達成可能な現実的なものを設定します。
OKR | KPI | |
---|---|---|
正式名称 | Objectives and Key Results (目標と主な結果) | Key Performance Indicator (重要業績評価指標) |
目的 | ・組織と従業員の意思統一 ・目的の明確化 ・エンゲージメントの向上 | ・目標達成度の管理 |
個人目標の共有範囲 | 社内全体 | プロジェクトチーム内 |
評価頻度 | 1~3ヵ月に1回評価しつつ、頻繁なフィードバックを実施 | プロジェクトによって変わる |
計測方法 | 定量評価 | 定量評価 |
目指す目標の達成度 | 60~70% | 100% |
MBOとOKRの違い
MBOとは、「目標による管理(Management by Objectives)」という意味で、従業員自ら個人目標を決めてもらい、四半期から半期ごとにその進捗や達成度を測定して評価・管理するマネジメント手法です。
OKRとMBOの大きな違いとしては、OKRは組織全体の目標達成が目的であるのに対し、MBOは個人の評価が人事評価に使用される点があります。また、MBOもKPIと同様に100%の達成率を目指すため、達成可能な目標を設定するという点もOKRとの大きな違いです。
OKR | MBO | |
---|---|---|
正式名称 | Objectives and Key Results (目標と主な結果) | Management by Objectives and Self Control (目標による管理) |
目的 | ・組織と従業員の意思統一 ・目的の明確化 ・エンゲージメントの向上 | ・業務管理 ・生産性向上 ・人事評価への使用 |
個人目標の共有範囲 | 社内全体 | 従業員と直属の上司 |
評価頻度 | 1~3ヵ月に1回評価しつつ、頻繁なフィードバックを実施 | 1年に1回評価しつつ、頻繁なフィードバックを実施 |
計測方法 | 定量評価 | 定量評価および定性評価 |
目指す目標の達成度 | 60~70% | 100% |
OKRの導入方法
実際にOKRを導入する際は、下図のような形でまずは会社全体のOKRを決定し、その後に部署ごとのOKRを決定するといったように、トップダウン式に決定することで効率的な導入を行うことが可能です。
ここでは、OKRの具体的な導入方法を解説していきます。
①達成目標(Objectives)の設定
まずはじめに、挑戦的な定性目標を設定しましょう。先に述べた通り、「難しいが頑張れば達成できそうな、達成率が60〜70%となるような目標」といった難易度で目標を設定します。
達成目標は、以下の要素を満たした目標を設定しましょう。
- 会社のビジョンに沿った定性的な目標
- チームの士気が上がる挑戦的な目標
- 1〜3ヵ月程度の期限がある目標
- 各部署が独立して実行できる目標
設定した目標は全員の目標意識を揃えるため、個人だけでなく組織全体で共有していきましょう。
②主要な成果(Key Results)の設定
次に、達成目標に紐づく成果目標を設定します。
1つの達成目標に対して2〜5個程度の成果目標を設定するのが良いとされています。成果目標を定義する上で重要なのは、達成目標に到達した際の状態を具体的な指標で示したものになっているという点です。成果目標を達成したのにも関わらず、最終的な目標が達成されていなければ意味がありません。
成果目標を設定する際は、「SMARTの法則」というフレームワークに則ることで、明確で従業員が行動しやすい環境を整えることができます。
- Specific=具体的で分かりやすい
- Measurable=計測可能
- Agreed upon=達成が可能
- Realistic=現実的
- Timely=期限が明確
③自信度(Confidence Level)の設定
OKRが決定してからも、目標達成の可能性をモニタリングするために自信度を設定し、定期的に計測していくことが重要です。
自信度とは、個人の目標達成可能性を示す指標です。自信度の設定・計測により、目標の進捗状況を見える化し、チームの健全性を高く保ったままOKRの達成を目指すことが可能です。
自信度の変動に合わせて都度フィードバックを実施していくことで、業務の割り振りや目標の見直しといった方向修正を迅速かつ柔軟に実施することが可能になります。
OKRの運用方法
OKRの導入で高い効果を得るためには、正しく運用していくことが重要です。
ここではOKR導入後の具体的な運用方法について解説していきます。
①週に一度の進捗確認
週に一度、1時間以内の短い時間で個人の目標の達成度合いを確認し、メンバー同士で評価し合いましょう。
進捗確認時は以下の4点を確認していきます。
- OKRの進捗状況
- 自信度の確認・更新
- 現状の課題、問題点の要因分析
- ネクストアクション
進捗確認は、目標を達成するための方法について議論する場です。より良い成果を出すために、客観的な事実に基づいた分析を行いましょう。また、従業員のモチベーションを高めるために、「できたこと」に着目したセッションを設けるのも良いでしょう。
②定期的な中間レビューの実施
OKR設定期間の中間地点(3ヵ月の場合は1.5ヵ月経過時点)で、全体的なレビューを1〜2回行いましょう。中間レビュー時は週次確認でしてきたような、これまでの成果の報告から今後の改善策までについて議論していきます。
③中間レビューの各OKRの結果を最終評価
OKR設定期間が終了した時点で、目標の達成度を評価する必要があります。
ここでは、設定期間終了時に目標に対して60〜70%程度の到達率であれば達成とみなします。
その後、その結果に至った要因を分析し、目標の継続・切り替えの判断をしましょう。
ここで得た過程や評価内容は、経営の最適化だけでなく、次回のOKR設定時に役立つため、組織全体でしっかりと把握・共有するようにしましょう。
④次の期間のOKRを設定
最終評価で得た知見を参考にしながら、次のOKRを設定していきます。
このようにPDCAサイクルを回していくことで、組織の結束力や生産性をより高めていくことが可能です。
OKR運用において重要なこと
OKRの目的は、組織全体の目標を明確にし、メンバー全員が同じ目標に向かっていくことで、コミュニケーションを円滑にし、生産性を向上させることです。KPIのようなプロジェクトごとの細かい指標やMBOのような人事評価に繋がる評価指標とは切り離して考えていく必要があります。
OKRを達成させるためには、その進捗状況を常に確認できるように社内環境を整備していくことも重要です。
ワークマネジメントツールの「Asana」には、OKRを管理するための機能が搭載されています。
Asanaを使用することで、組織全体の目標を個人の目標と紐づけ、効率的なOKRの管理ができるようになるでしょう。