【対談】組織変革のプロが語る!
これからの日本企業のあり方

長引くコロナ禍、止まらない円安など、日本企業は今、激動の時代の真っ只中にあるといえる。組織や会社運営にも変化が求められる中、先行きに不安を感じている人も多いだろう。

今回は、Management 3.0のトレーニングを推進するヒロラボ代表・渡辺と、ティール組織の解説者・第一人者である東京工業大リーダーシップ教育院の特任准教授・嘉村賢州さんに、日本のこれからの組織運営について話を伺う。

組織変革のプロ2人の目線から日本企業の将来を考察するとともに、次世代の組織運営手法であるManagement 3.0やティール組織が、日本でどう活かせるかについても語ってもらう。

前編はこちら→【対談】ティール組織の解説者からみたManagement 3.0の特徴について

激動の時代でも成果が出る組織とは

渡辺:最近、海外ではIT企業を中心にレイオフの話をよく耳にするようになりましたね。日本ではレイオフでの退職という話はありませんが、働き方という視点ですとコロナ禍でリモートワークが主流になるなど、私たちを取り巻く環境は大きく変化しているといえます。

そんな変化が激しい時代の中で、従来の日本組織にありがちなヒエラルキー型が今後いつまでも続いていくかというと、そうではない気がしています。かといって、大企業などで採用が増えているジョブ型が今後主流になっていくかと聞かれると、それも違うのかなと感じるんですよね。

嘉村様:海外のようなレイオフが可能な組織やジョブ型の組織は、競争スピードは早そうですよね。与えられた環境で価値を発揮できなければ、明日クビになるかもしれない。そのようなプレッシャーの中であれば、本気で頑張る人も多そうです。

一方で、一般的な日本の組織は、海外のように明日クビになるという心配はありませんよね。だからこそ、いろいろな発言もしやすくなるし、集合知というか、現場からのアイディアをもとに、さまざまなイノベーションを生み出すことも可能なんだと思います。また、ローテーションでさまざまな経験をすることで、裾野が広がるという良さもあります。

しかし、安住してしまいやすい、つまり考えなくても居続けられる、結果を出さなくても居続けられると考える人が増えてしまう傾向もあると思います。コミュニティの繋がりが強いので、忖度があったり、言いたいことが逆に言えなかったりという弊害もありますよね。

渡辺:そう考えると、今後は貢献型というか、従業員の幸せを第一に考える組織が生き残っていくような気がします。従業員が働きやすい環境を作ることが、結果的に会社の利益に繋がっていく、そういった考えにシフトしていく会社ほど、変化に強く成果を出しやすいのではと考えています。

だからこそ、今後、ティール組織やManagement 3.0が寄与できる部分も多いのではないかと思うんですよね。

嘉村様:そうですね。日本の組織はこの10年20年、特に標準化やマニュアル化に行き過ぎてしまった傾向があると思います。能力がある人がクリエイティブな仕事をしているかというとそうではなくて、実は高度なルーティンワークをしているだけということは、結構多いと思うんですよ。

これは、ビジョンや戦略を作っている人と現場が乖離しているために起こっているんですよね。だから、ビジョンや戦略を作っている側は、なぜこの仕事をやるのか、これからどうしていくのか、どのような仕組みでやっていくのかという考えて試行錯誤する部分を現場に取り戻させてあげることが重要だと思います。

人間関係が豊かで誠実な人が多いという文化を残しながら、忖度など負の部分をなくして進化し、より創造的な部分もみんなで担っていけるようになると、日本の組織はだいぶパワフルなものになると思います。

でも、理想の組織を作るためのやり方がわからない、そのようなときにティール組織やManagement 3.0の考え方が参考になると思うんです。特にManagement 3.0は、方法論がモジュール化されていたり、チーム単位など小さく始めたりができるので、入口としてやり始めるには結構いいなと感じています。

評価制度や目標管理はどうなる?

渡辺:Management 3.0のトレーニングを受けていただいたお客様からよく話に挙がるのが、目標管理や評価制度についてです。

今日本では、MBO的な目標管理をして、四半期または半年、1年ごとに評価をするというのが一般的ですよね。目標の決め方が難しく、評価基準が曖昧で、従業員が働きにくい環境になってしまっているとか、評価に対するフィードバックが有耶無耶になっていて、結果として離職率が高くなっているという悩みを抱えている組織は多いように感じます。評価の時期にだけ、いわゆる忖度やゴマスリが増えるなど、健全とはいえない組織も多いですよね。

嘉村様:日本は、教育も含めて、外発的動機付けにも染まりきっているんですよね。どう評価されるかとか、自分の市場価値はとか、社会的ポジションはとか、唯一無二の自分を問うのではなくて、周りとの位置関係で自分を見ているんです。そういったものだけで評価されていることは本当につまらないのに、多くの人が動かされているのが今の状態ですね。

これからの日本が取り戻さなくてはいけないのは、働く仲間とアイディアを出し合ったり、うまくいかなかったときに励ましあったり、感謝されたりというやりとりが楽しいとか、自分の提供しているものが、お客様の幸せや笑顔、喜びに繋がっていると感じられることだと思います。評価や承認で喜ぶといった、今までの教育で植え付けられたものではなく、本来の人間としての喜びをチームや組織単位で取り戻すことがスタートでしょうね。

渡辺:Management 3.0の中でも、外発的動機付け、内発的動機付けにフォーカスする話があります。二者択一ではないですが、まずは内発的動機付けにフォーカスしましょうとメッセージとして伝えています。その上で、外発的動機付けにもフォーカスしましょうというのを伝えているんです。

嘉村さんのおっしゃる通りで、我々はテストで何点とったとか、昔から外発的動機付けを強く意識させられてきましたよね。そこから、自分はこれができたらいいというような内発的動機付けにシフトするのは、個人でも難しいし、組織として取り入れるのも非常に難しいなと感じています。

ただ、これからの日本の組織運営を考えると、内発的動機付けにフォーカスすることは、個人としても組織としても、意識して取り組まないといけないと改めて思いました。

嘉村様:よくあるのが、これからは内発的動機付けの時代だ!と経営者やリーダー、人事部などが声をあげて、ただ評価制度をなくすだけで終わってしまうというケースです。これは外発的動機付けに染まっている人たちからすると、急に梯子を外されたようで恐怖でしかないんです。

ティール組織でもManagement 3.0でも、急に取り組むのではなく、移行も含めてきちんと計画してから取り組むべきだと語られています。従業員を不安にさせたり、混乱が起こったりしないようにするためにも、きちんと勉強をしながら移行計画をデザインしてほしいなと思いますね。

階層のないフラットな組織にすべき?

渡辺:ティール組織にもManagement 3.0にも、人と人の関係をフラットに考えてもいいという考え方がありますよね。例えば、Management 3.0だと、権限の譲渡をする際は、上から下に権限を落とすと考えるのではなく、単純に権限を渡す人と受け取る人という対等な存在として考える視点があります。ティール組織では、階層についてはどう考えられているんですか?

嘉村様階層については、ティール組織の考え方で誤解されやすいポイントの1つなんです。よくあるのが、これからは階層の時代ではなく対等の時代だからと肩書きを全部なくしてしまい、社内に大きな混乱を招く事例です。

渡辺:なるほど(笑) 誤解したまま、極端な方に走りすぎてしまう組織や人が多いということですね。

嘉村様:そうなんです。ティール組織では、組織には幅広い視野の役割と、現場に直結する役割の2種類があり、どちらもとても大切だと考えられています。

今の日本では、幅広い視野の人たちの方が賢くて給料が高いとされている。さらに、命令権限と結果責任を持っていて、現場に直結する人たちとの間に上下関係ができているというケースが多いですよね。

その役割をただ取り上げてしまったら、みんなが好き勝手にやってしまって、リソースの調整も行われなくなるし、組織としてのブランドも統一されなくなってしまうんです。ですから、今までのような上下関係ではなく、例えば、幅広い視野の役割の人が、現場の人たちの社内コンサルタントのような形で存在するというのはいいかもしれませんね。

現場の人たちは上司役を選べて、好きな人に助言を求められる、その上でやり方は現場が決めていくという方法ですね。今まで上司だった人たちは、どれだけ助言を求められたかで評価される仕組みを作っておけば、自己研鑽を怠けないし、自然と人間力も磨かれていくと思うんです。

ですから、ティール組織が伝えたいことは、単純に上司なんていらない、階層なんていらないということではない点は、理解してほしいですね。

振り返りは重要

渡辺:業務のパフォーマンスを計測する指標としてKPIを設定している企業も多いですよね。Management 3.0ではKPIや競争について否定はしていないのですが、ティール組織ではどのように考えられているんですか?

嘉村様:ティール組織でも、競争を否定してはいないです。正確にいうと、過度に競争を毛嫌いするのも違うと語られています。切磋琢磨するという競争の良い部分と、競争のない協調的な部分、どちらかに寄りすぎず、その間に立とうというのがティール的な発想です。

渡辺:なるほど。Management 3.0では、競争はあるものだと考えています。内部で起こる競争は高めあいという見方ですね。そのための指標として、KPIを許容しているというか、KPIがあってもいいよねという考え方をしています。

嘉村様:もう少し正確にいうと、ティール組織の場合はレッド、アンバー、オレンジ、グリーン、ティールそれぞれ前の段階を含んで超えるという概念があり、前のパラダイムを否定することはしません。それぞれが全て発明だという考え方ですね。KPIはオレンジの発明ですが、ティールでは計画全てを手放せと言っているわけではないんです。ただ、今の組織はありとあらゆることに計画アプローチを当てはめすぎているので、きちんと使うべきところと使わないところを選べるようにしましょうというのが、ティール組織の一番正しい考え方です。

渡辺:なるほど。Management 3.0には振り返りはかなり大事だという考え方があるんですが、ティール組織ではどう考えられているのでしょうか?

嘉村様:振り返りの場を持つことは重要ですが、振り返りの方法は問わないという感じですね。振り返りをすることの大目的さえ果たせていれば、KPIに基づいた振り返りでも、定性的なものに基づいた振り返りでも、自分達で決められるという考え方です。

渡辺:ティールという考え方があった上で、アクションプランは組織によって全然違うし、組織の中でも事業所やチームによって違ってくるということですね。

ルール作りは必要か?

嘉村様:その通りです。例えば同じ訪問医療の会社でも、場所やどのような人を対象にするかで働き方は全く異なりますよね。だからこそ、一律でルールを作るのがおかしいという発想です。とことん利用者を幸せにしようとか、チームの多様性を活かした進化できるチームでいようといった大きな概念を共有化することはあっても、具体的な運用ルールやプロセスの話は関連するチームごとで別々でもいいというのがビュートゾルフなどで使われているモデルです。

渡辺:Management 3.0にも、ローカルルールを許容しようという考え方があります。Management 3.0では、中央集権型の組織より分散型の組織の方が変化への対応や生存確率が高いと考えられています。だからこそ、課題が発生している現場に一番近い人たちが対処した方がいい、ローカルルールも意識しようという、ティール組織と似た考え方があるんです。

嘉村様:現場のセンサーを活かして、現場権限でやれる仕組みを作りましょうということですね。

渡辺:そのために緊急時にいきなり動くのではなくて、平時から動きやすいようなルール作りをしておくという点は、ティール組織とManagement 3.0の共通点としてあると思います。

嘉村様従来のヒエラルキー型の組織にアレルギーがある人たちは、仕組み嫌い、ルール嫌いが本当に多くて、ルールを全部取り払ってしまおうとする人が多いんです(笑)

でも、ルールをゼロにすることがティール組織ではないんですね。性善説を根底にして、できるだけ少ないルールで機能するような組織にするというのが正しいんです。だから、働き方も情報共有も含めてルールがあるけれど、設けるルールはできるだけ少なくしておこう、全体ルールが多いとがんじがらめになるからローカルルールも大事にしようというのが基本的な考え方です。

重大リスクに関してはルールを設けて未然に防ぐけれど、それ以外はやってみた結果で反応した方が危機も察知しやすいし、チャンスも捕まえやすいということですね。重大リスクも含めていろいろな仕組みやルールを作ってしまうと、危機は少なくなるかもしれないけれど、チャンスも少なくなるので、それはやめておきましょうということです。

渡辺:今のヒエラルキー型の組織にガチガチに染まっている人や、ルールがないと動きにくいという人に、どう新しい考え方を学んでもらうかが今度の課題になりそうですね。

嘉村様:そうですね。Management 3.0の考え方やティール組織といった考え方は、変化の激しいこれからの時代に、間違いなく主流となるものだと私は考えています。日本ではまだあまり浸透していませんが、変化に強い組織や多様性が認められる組織、いわゆる「進化型組織」を築いていくために有用な考え方であると思うので、これからも普及や啓発に努めていきたいですね。

対談後記 ヒロラボ 渡辺より

前回は嘉村さんに色々とご質問いただきつつManagement 3.0の特徴についてご紹介をしました。今回はみなさまが気になれている[自身にとってどんな良いことがあるのか?]に応えるべく、より解像度を上げた対談となっております。

嘉村さんと話をしていて非常に印象深かったのが[この先10年で起こる日本の変化]というお話しです。

こちらもボリュームがありつつも記事にするのは難しかったので、もしお会いできた方には直接ご紹介させていただければと存じますが少しだけ記載すると、あらゆるモノが変化していく、という予測です。

例えば、[組織図]です。縦や横に部署や役職が記載されているのが今の組織図の基本的な形ですが、これが大きく変わっていくはずです。それは対談の中でも触れていますが組織ないし人との結びつき方が変わってくるからです。同時に評価についても変化が起こってきます。

そうするとみなさまの身近なモノを例示すると人事システムの機能が変わってきます。恐らく今みなさまが利用している機能の殆どが古くなり、10年後には利用していない可能性が高いです。

2022年の今から10年前を振り返るとyoutuberや社内チャットツールなど今ではみなさまの周りで[当たり前]になっているモノの種が芽生え始めた時期でした。

これから先の10年で起こる変化の中心の一つとして考えられているのが、[自律]という考えになります。そして、この先活躍できる人材というのが[自律]を体系的に実践できる人と予想されております。

スクラムという考え方の中では[自己組織]という言葉から、[何]に焦点を充てるのかという視点で[自律]を内包する[自己管理]という言葉が使われ始めております。

あらゆるビジネスで応用できる[自律]の考え方のヒントをこの対談の中で触れられたと思いますので、ぜひ記事をご覧いただき、Management 3.0やティール組織について興味を持っていただけましたら幸いです。