【対談】ティール組織の解説者からみた
Management 3.0の特徴について
システムや手法に関するさまざまなソリューションを通して、数々の企業の組織変革を支援しているヒロラボ社。そんなヒロラボ社の代表である渡辺が、今最も注目しているのが組織開発の考え方がManagement 3.0である。Management 3.0は、オランダで誕生した新しいマネジメント手法である。変化に強い組織や生産性の高い組織など、今後の日本の組織運営に欠かせない考え方であると渡辺は語る。
今回は、東京工業大リーダーシップ教育院の特任准教授であり、ティール組織の普及、啓発、実践、支援を行う嘉村賢州さんをゲストに招き、ティール組織の第一人者からみたManagement 3.0の特徴について掘り下げていく。
人ではなくシステムをマネジメントする
嘉村様:Management 3.0は日本での認知度はまだ低いですが、海外ではティール組織などと共に、今後主流となるであろう次世代の考え方として注目されていますよね。まずは、Management 3.0がどのようなものかお伺いさせてください。
渡辺:Management 3.0は、ヨーガン・アペロという1人のシステム開発者が考え、体系化したマネジメント手法です。Management 3.0では、みんなが働きやすい組織づくりのために、相手をコントロールするのでは無く、相手と自分の間にある仕組みやルールを1つのシステムとしてとらえ、そのシステムをコントロールするという考えとなっています。それを全員でコントロールし、育てていけば、みんなが働きやすい仕組みになっていくと考えられています。
この考え方を分かりやすくするために、Management 3.0ではこれまでのマネジメント方法を2つの形に定義づけています。詳しくはトレーニングの中で紹介しますが、上意下達のような考え方を1.0、上位層との間にミドル層をおくけれど、そのミドル層がうまく機能していない状態を2.0と定義しています。従来のマネジメントスタイルでうまくいかなかった部分を見直し、端的にお伝えすると、組織のみんながハッピーになれるような環境づくりをすることがManagement 3.0の定義となります。
先ほどもお伝えしましたが、Management 3.0の基本的な考え方は、「人ではなくシステムをマネジメントする」です。それを体現するために「マネジメントとリーダーシップ」「複雑性思考」の2つの原則があります。マネジメントとリーダーシップは「そもそもManagement 3.0とはなんだ?」という基本的な考え方で、複雑性思考はManagement 3.0をうまく進めるためのスタンスと捉えるとわかりやすいと思います。
そして、その原則を活かして、組織運営に必要な要素を6つの視点にまとめています。2つの原則と6つの視点の下には、さらに細かいモジュールやコンテンツと呼ばれるものがあり、それらをトレーニングとして皆様に提供している形になります。
組織全体を変化に強いものにできる
嘉村様:コロナなどの影響で先が見通しにくい世の中で、上意下達の強いリーダーが良いとされる揺り戻しがきている傾向がありますよね。Management 3.0へ移行すると、組織にはどのようないいことがあるんでしょうか?
渡辺:端的にいえば、組織が上手に機能して、みんなが働きやすくなるといえます。少し曖昧な言い方になっているのは、場合によってはManagement 1.0や2.0のスタイルが活きる組織も当然あるからです。Management 3.0はこれらを否定しているわけではありません。
一方で、変化が激しいといわれる今の時代では、これまでの2.0や上意下達の強いリーダーシップでうまく対応できないケースがあることがManagement 3.0の前提としてあります。そういった会社は、自己組織型や自立型組織といわれるような、従業員一人ひとりが主体的になって動ける環境を求めていると考えられます。変化が激しい昨今のような状況で生き残る組織は、実はこういった企業ではないかと定義し、それを達成するために考えられたのがManagement 3.0というわけです。
嘉村様:誰か一人が制御するわけではなく、みんなで回して、みんながコントロールしやすいシステムを作っていくということですね。
渡辺:そうです。ちなみにManagement 3.0ではシステムの舵取りをする人、メンテナンスする人を、リーダーやマネージャーと呼ぶ考え方があります。Management 3.0を取り入れることでマネージャーなどの管理職がいなくなるかというと、そうではないです。
嘉村様:ヒエラルキーや上意下達の組織の弊害を味わった人が多いと、自立分散型やボトムアップ型の組織を過度に求める傾向が、ティール界隈でもよく見られます。しかし、その反発からスタートすると個々がバラバラになることが多く、組織としてのインパクトを残しにくい傾向にあります。
Management 3.0はそうではなくて、人が集まってアウトプットしようとしているので、バラバラではなくサポートしあい、緩やかな階層を残しながら組織を作っていく感じですね。そして、大きな特徴は、人ではなく、システムに焦点を当て、2つの原則と6つの視点をもとに構築されていることでしょう。
Management 3.0を学ぶべき人
嘉村様:渡辺さんは、Management 3.0をどのような職種の人、どのような立場の人に受講してほしいと思いますか?
渡辺:これは非常に多く質問をいただく点ですね。いつも私は、どの職種や職位の方が受けても構いませんとお答えしています。今はまずは興味を持った方が個人で受けていただき、そこから徐々に組織の人を巻き込んで波及していく形が多いのですが、一つ理想を挙げるならば、Management 3.0を受講した後にそれを実践する人たち全員、具体的には1チーム全員揃って受講した方がよいともお伝えしています。これは何か新しいものを取り入れる際に、まずは全員のインプットを揃えておいた方が、その後のアウトプットやアクションがスムーズだと考えるからです。
もちろん、マネジメントと名がつくものなので、まずはマネージャー層に受けてもらうのも悪くはありません。しかしその場合は、メンバーに情報を伝えたときにインプットの齟齬が起きないよう、研修の内容を噛み砕いて説明できるようにしておくとよいとお伝えしています。
そのため、例えば企業における経営者の方や人事部の方の主導で研修を企画する形も有効ですし、チームリーダーの方や、あるいはスキルアップをしたい個人の方が受ける形でもよいと思います。
嘉村様:つまり、Management 3.0はきちんと学び、解釈の違いが起こらないようインプットを揃えれば、チームや事業部単位でも効果が出やすいということですね。そこは、ティール組織との違いで面白いなと思うところです。
ティール組織では、時代とともに進化する組織を、レッド・アンバー・オレンジ・グリーン・ティールと色で捉えています。ティール的な学びを活用して、現状オレンジの組織やグリーンの組織を健全化するとかは可能です。しかし、真にティール的な組織を目指すときには、組織のトップがティール組織の価値観に共鳴する必要があると提唱者のフレデリック・ラルーはいいます。だからこそティール組織を学び実践する人は、中小企業も上場企業も含めて、経営者は外すことができない傾向にあります。
ですから、Management 3.0がチーム単位とか事業部単位でも実践できる点は、希望というか、面白い違いだなと感じますね。
ティール組織とManagement 3.0は相互補完的な存在
渡辺:Management 3.0の中には、組織変革をどう進めていけばいいかを学ぶコンテンツもあります。それをそのまま組織に当てはめて変革を進めることもできますし、Management 3.0の考えを元にどのように変革の風を起こすかの新しい案を考えることにも活用できます。
嘉村様:それは面白いですね。ティール組織は、どちらかというと世界観や方向性に近いものがあります。ティール組織を目指すための進め方が定義されているわけではなく、さまざまな事例を参考にしつつ、実験や失敗を重ねながら、数年かけてティール的な組織を目指していく感じですね。
ですから、中にはあまり勉強せずに誤った理解や方法で進めてしまい、結果的にうまくいかないケースは多々あります。また、ティール組織の考えに共感しても、進め方がわからないから一歩が踏み出せないという話もよく聴きます。
だからこそ、Management 3.0でニューパラダイムへの変革の仕方や、チームの進め方などを学んでおくといいかもしれませんね。Management 3.0の考え方をうまく活用すれば、ティールの学びを組織に実装しやすくなる気がします。
渡辺:おっしゃる通りで、ティール組織とManagement 3.0は、対立するものではないんですよね。一緒に組み合わせることによって、相互補完的な役割や相乗効果も期待できると思っています。
ただ、それをどううまくそれぞれの組織に当てはめるか、どう正しく伝えてうまく機能させるかは、我々のようなコンサルタントがそれぞれの組織の状況を理解しながら、うまくカスタマイズしていく必要があると思っています。
嘉村様:組織変革や組織開発は、往々にして気合いでなんとかできると思われている風潮がまだまだありますよね。しかしティール組織やManagement 3.0といった新しい考えを取り入れる際には、アンラーニングや学び直しを丁寧に行うことが大前提であると考えています。ティール組織もManagement 3.0も今はまだ少数派ですが、10年後・20年後には主流となる考え方となると思います。間違いなく、日本や世界に希望を照らす概念だと思うので、今後も工夫しながら、情報発信や実践、支援に取り組んでいきたいですね。
対談後記 ヒロラボ 渡辺より
今回、このような対談の場をいただけて嘉村さんには大変感謝しております。少し大げさな言い方になりますが、今の日本の組織開発において[ティール組織]は最も有名な考え方になっていると個人的に考えております。
この考えをまとめられた書籍を監訳しつつ、日々多くの方向けに組織論の浸透を進められている嘉村さんにManagement 3.0を紹介するのはかなり緊張しました。
ですが、以前嘉村さんと会話をした中で[海外ではManagement 3.0もティールと同じように注目されていますよ。日本でManagement 3.0が知られていないのは企業目線で見て勿体ないですね]という言葉をもらい、もっと情報発信をしていくことが日本企業の成長支援に繋がるのではと思い、嘉村さんへ対談のご協力をお願いしました。
当初は1つの記事にまとめるはずが、かなり話が盛り上がってしまいボリュームも増えたため、前編後編の2回に分けて皆様に記事を公開させていただくこととなりました。
かなり嘉村さんの胸をお借りしてManagement 3.0を紐解いた記事になっておりますが、様々な企業で働かれる皆様一人一人にとって、新しいリーダーシップを体系的に身につけることができる考え方であるため、是非記事をご覧いただきManagement 3.0に興味を持っていただけましたら幸いです。
後編はこちら→ 【対談】組織変革のプロが語る!これからの日本企業のあり方